2021年、連載「生」を撮るにて、巻頭カラー5ページ執筆した「桜が咲く理由」


 

”ひらり、ひらり”

今年も僕の足元に淡いピンク色の花びらが舞い降りた。

「もうこの季節か。」

その花びらを拾い、そよ風に結んでそっと飛ばした。

春になると桜は何かを語りかけてくる。
そして僕は『あの頃』を思い出し、初心にかえってみたり、自分の中に拳を握ってみたりする瞬間がある。
この季節になると、誰もが一度、この様な気持ちを経験するのかもしれない。

桜の持つ不思議な力や儚さに魅了された僕だが、向き合っている内にいつからか桜が春に咲く理由を探し求める様になった。
一見答えが見つからなさそうな問いに取り組み始めてしまったが、これがまた面白いことに、毎年同じ場所でも様々な発見があった。
昨年、大きな花を元気に咲かせていた木は、今年は元気がなく小さな花であったり、枝が折れていたりすることがある。
または、地面すれすれの幹から新しい花を咲かせている枝もあれば、白い染井吉野の中に、何故か河津桜の様なピンク色の花が混じっていることもある。

この様な自然の神秘的な光景に出会えると、まるで宝探しでお宝を見つけた様な気持ちにさせてくれる。

桜が見せてくれる光景は正に奇跡の瞬間が多かった。
だから僕はどんどんその世界に魅了されてシャッターを切っていくのだろう。

そして、桜を撮る時に大切にしていることは、「その瞬間、今、を大事にする」ということを忘れない様に心掛けている。

桜が咲き誇る期間は他の花と比べてもとても短いので、後で撮れば良いというスタンスでは撮り逃してしまう。
同じ一日でも夕方には役目を終えていたりするくらい、桜が咲く時間は儚く短い。
短い出会いに感謝して、一枚一枚大事にシャッターを切っている。
このシャッターを切る時の人差し指の感覚は、まるで残り一枚になったフィルムカメラで撮影しているかの様な緊張感と言えば伝わるだろうか。

また僕は、淡い色合いで撮ることが多いが、見てくれた人が明るい気持ちになったり、ほっと和んだりしてもらいたいという願いも込めて撮影をしている。

何より、撮らせていただくという立場から、写真家として感動やポジティブなエネルギーを還元することが大切であると思っている。

桜が咲く理由、それは自分の内なる ”心海(しんかい)の底” に答えがあるのか、あるいは、これと言った理由を見つける必要はないのか—。

きっと、この向き合う時間が大切なのだろうと今は思う。

まだまだ時間は掛かりそうだが、真摯に向き合っていく姿勢でいたい。

僕の元に舞い散る桜、今年も語りかけてくる桜に、僕はカメラを向けていた。

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